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水銀燈「…ん…もう、こんな時間か…。」 その日、水銀燈はいつものように、規定の時間に学校へ行かずに惰眠をむさぼっていた。 いつもなら、このぐらいの時間になると薔薇水晶が迎えに来るはずなのだが、どうやら今日は諦めたらしい。 水銀燈「ふぅ…こんなことで済むのなら、始めからインターホンの電源を切っておけばよかったわぁ…♪」 そう言うと、水銀燈は布団をかけなおし、静かに寝息を立て始めた。 しかしその直後、どこからともなくヘリコプターの轟音が辺りに響き渡る。 水銀燈「…うるさいわねぇ…。一体何の宣伝よ…?」 そう、それはただのヘリコプターのはずだった。 頭から布団をかぶり、その轟音に耐える水銀燈。そこへ、窓ガラスの割れる音が室内に響く。 その音に驚いて飛び起きると、そこには薔薇水晶に似た白い服の女性がいた。 水銀燈「誰…!?」 思わず身構える水銀燈。白い服の女性は、微笑みながらこう答えた。 雪華綺晶「初めまして…お姉さま。私は、薔薇水晶の姉…雪華綺晶…。妹の命により、貴女を学校へ連行します…。」 …水銀燈と雪華綺晶…これが、2人の初めての出会いだった。 ローゼン「…というわけで、全員そろったところで皆に紹介するね。この方は、薔薇水晶のお姉さんの『雪華綺晶』君。ちなみに前職では、傭兵の仕事をしていたらしいよ?」 その紹介に、あるものは驚きの声を上げ、あるものは『こいつにはイタズラするのは控えよう』と心に誓った。 ローゼン「じゃあ、早速仕事を…といいたいところなんだけど、まだ君の机が無いんだよね?薔薇水晶君、旧校舎から机を持ってきてあげてくれるかい?」 薔薇水晶「はい、喜んで…!」 姉と一緒に仕事が出来るのがとても嬉しいらしく、薔薇水晶は喜びに満ちた顔で旧校舎へと向かった。 それを確認すると、水銀燈は雪華綺晶にこんなことを言いだした。 水銀燈「…って事は、あなたは私の『後輩』って事よねぇ…?先輩の家の窓ガラスを勝手に割っていいと思ってる訳ぇ?」 雪華綺晶「えっ…!?ご、ごめんなさい!お姉さま…!!きちんと弁償しますから…!!」 その言葉に思わず水銀燈はほくそ笑んだ。 軍隊といえば、やはり体育会系…そして、上下関係は絶対…その予想は見事に当たった。 水銀燈「いいのよぉ…♪元々、私が学校に来なかったのが悪かったんだしぃ…。あ、でも、今日お財布持ってくるの忘れちゃったから、お昼ご飯代貸してくれるぅ?」 …こうして、水銀燈は雪華綺晶にたかり始めた。 薔薇水晶「姉さん、今日は久しぶりに外でご飯食べない…?」 雪華綺晶「…ごめん。お金、無いから…」 学校へ赴任してから1週間…雪華綺晶はお金の工面に苦労していた。 あれからというもの、水銀燈はコーヒー代から架空の香典費用に至るまで、あらゆる面で雪華綺晶にお金を『借り』に来た。 雪華綺晶としては、先輩の頼みを断るわけにもいかず、また妹にカッコ悪いところを見せるわけにもいかずといった悪循環にはまりつつあった。 そんな雪華綺晶の様子を不審に思ったのか、ある日薔薇水晶は雪華綺晶のあとを尾行した。 元々傭兵だっただけに、何度かばれそうにはなったが、ついにその原因を突き止めることに成功した。 水銀燈「ごめんねぇ…急に呼び出したりなんかしちゃって…。実は私、車で人引いちゃって、その示談金に200万ぐらい…いや、100万でいいから貸して欲し…」 薔薇水晶「姉さん…!この人の言っている事は全部嘘だから、騙されちゃダメ…!!」 突然現れた薔薇水晶に少し驚きながらも、水銀燈は落ち着きを取り戻し返答した。 水銀燈「失礼ねぇ…。勝手に嘘つき呼ばわりしないでくれるぅ…?」 薔薇水晶「だって、銀ちゃんの車…傷一つ付いて無いじゃない…!最近、何か姉さんが元気ないと思ったら、こういうことだったのね…!!早く、姉さんに貰ったお金…返してあげて!」 水銀燈「やぁよぅ…毎日ヘリで登校するぐらいだから、お金一杯持ってるんでしょう?それに、お姉ちゃんが決めたことに、妹が口を挟んじゃダメよぉ。さ、行きましょう…雪華綺晶…♪」 雪華綺晶「で…でも…」 雪華綺晶の手を引っ張って、外へ連れ出そうとする水銀燈。その行く手を薔薇水晶が遮った。 薔薇水晶「だめ…。お願いだから、早く返してあげて…!」 水銀燈「…邪魔よ!」 そう言って、水銀燈は薔薇水晶を突き飛ばした。 「うっ…!」っと短く声をあげ、尻餅をつく薔薇水晶。その薔薇水晶に駆け寄ると、雪華綺晶は水銀燈をにらみ、小さくこう呟いた。 雪華綺晶「…ばらしーを、いじめたな…?」 その声を聞き、薔薇水晶は思わず叫んだ。 薔薇水晶「大変…!!銀ちゃん、早く姉さんに謝って…!こうなると、私でも止められないの…!!だから、早く…!!」 水銀燈「ふん…何を言ってるの!?傭兵だか何だか知らないけど、この私にかなうわけ…」 その瞬間、1発の銃声が廊下に響き渡った。水銀燈の輝くような銀色の髪が、何本か地面に落ちる。 水銀燈「…え!?」 雪華綺晶が取り出したもの…それは、デリンジャーと呼ばれる小型の拳銃だった。 再びそれを水銀燈に構えると、雪華綺晶はこう言った。 雪華綺晶「…私はどうなってもいい…。でも、妹に手を出すことだけは絶対に許さない…!!」 薔薇水晶「姉さん、やめて!私なら大丈夫だから!!銀ちゃん…早く!!」 真紅「何!?今の音は一体何なの!?」 発砲音を聞きつけ、続々と人が集まってくる。 その人ごみのせいで、もはや逃げようにも逃げられない状況になった水銀燈は、ついに雪華綺晶に謝罪した。 それは、決して屈しない女…水銀燈が初めて公式の場で人に謝罪した瞬間でもあった。 そう…有栖川学園最凶と謳われた水銀燈が、この屈辱を味あわせてくれた雪華綺晶を斃すためには、少しだけ時間が必要だった…。 心の奥底で、残忍かつ徹底的な復讐を誓う水銀燈…。 こうして、多くの火種を残しながらも、一時的な均衡は学園に訪れた。 そして、幾多の争いを経験するうちに、互いの気心が知れるようになると、両者の関係は良好なものへと変化していった。 …雨降って、地固まる… 二人には、そんな言葉がよく似合っていた。 完
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制服案置き場。 とりあえず候補デザインをおきます。 穴が開くほど眺めてくださいっ! 初等部男子 再び二つ提案します。 女子と対になる、という感じで考えてみました。 ちょっとシンプルすぎたかとも思いましたので、もっと付け足せ~等等ありましたら遠慮なくどうぞ。 A案 B案 初等部女子 とりあえず二案でたので置いておきます。 A案B案共にテーマは『まだまだ親の着せ替え人形』 学校とはいえ商売なので、制服なんかはお貴族様にお気に召すようなデザインにすると思うのです。 そして初等部は基礎の基礎なので、それほど機能的なものでなくてもよいはず。 なので『着飾る』ことを意識してみました。 B案に決定との事で、後日ネクタイに書き直して色を塗りたいと思います。 B案
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ピカァッ 澪「あ、また来た」 律「今度は誰だぁ?」 雛苺「ツムギー!」ぴょんっ 紬「ヒナちゃん…♪」 金糸雀「あ、雛苺じゃない。ご機嫌いかがかしら?」 雛苺「わぁカナダ! お久しぶりなの」 金糸雀「か・な・り・あかしらー!」 澪「か、かわいー!」 律(いかにも澪が好きそうな、人形らしいというか…) 唯「お名前はなんて言うの?」 雛苺「うゆ、ヒナはローゼンメイデン第6ドールの雛苺なのよ」 澪「雛苺ちゃん…」キラキラ 梓「仲良しでいいなぁ…」 唯「ふぇ? あずにゃんは仲良くないの?」 梓「いえ、特別仲良くないって訳ではないと思うんですが…いっつも紅茶をいれる時に失敗しちゃってその子に怒られてるんです」 律「ははっ、確かに梓は砂糖と間違えて塩入れてそうだなー」 梓(味の素です) 紬「あら…じゃあ今度私が紅茶のいれかた教えてあげましょうか?」 梓「いいんですか?」 紬「大歓迎よ♪」 澪「良かったな梓」 金糸雀「その子って真紅かしら…?」コソッ 雛苺「きっと…いや絶対そうなの…」コソッ ピカァッ 律「あ、また来たみたいだ」 唯「誰かな誰かなっ」 真紅「……」スタッ 雛苺「あー、真紅ー!」 梓「し、真紅」 金糸雀(やっぱり真紅だったかしら) 澪「この子がさっき言ってた子か?」 梓「そうです。じゃあ真紅、皆に自己紹介」 真紅「…私はローゼンメイデン第5ドール、真紅よ」 紬「真紅ちゃんって言うのね~」 唯「なんかこの2人と比べて、大人っぽいっていうか落ち着いてるね!」 雛苺「うゆ?」 金糸雀「か、カナの方がお姉さんなのにぃ…」 律「全くそう見えないな」 金糸雀「ふに"ぃいいい!」 ピカァッ 澪「また光ったぞ」 紬「今度は誰かしら~」 翠星石「おぅおぅ皆の衆、翠星石が来てやったのでひれ伏すといいで…ひぃっ!」 蒼星石「こんにちは、遅れてすみません」 唯「いいよいいよぉ、時間には間に合ってるし」 梓「唯先輩の言う通りです」 翠星石「…人間がこんなに多いなんて聞いてなかったですぅ!」コソッ 蒼星石「澪さんがちゃんと言ってたじゃないか。君が聞いてなかっただけだよ」 真紅「相変わらずね、2人共」 蒼星石「ふふ、久しぶり」 翠星石「真紅! ちびちび1号! ちびちび2号!」 雛苺「ヒナが1号ね」 金糸雀「あ、ずるい!」 律「いつもこんな感じなのか…」 紬「いいわぁ…」ポワン 澪「ムギがうっとりした目になった!」 紬「じゃあ残るは後1人ね」 雛苺「うゆ? 残る1人って…」 唯「うーん、一応言っておいたんだけどなぁ。もし来なかったらごめんね?」 梓「そうですか…」 澪「そういえば唯のところの子はなんて名前だったっけ?」 唯「水銀燈だよ。銀ちゃんって呼んでるんだぁ~!」 真紅「……」 金糸雀「……」 雛苺「……」 蒼星石「……」 翠星石「……」 律「…なんだこの空気?」 真紅「……」チラ 真紅「…もしかしたら迷ってるのかもしれないわね。迎えに行ってくるわ」 雛苺「真紅!?」 蒼星石「真紅…君、正気かい?」 金糸雀「行くのはやめて欲しいかしら!」 真紅「大丈夫よ、"迎えに"行くだけだもの。……じゃあね」 ピカァッ 翠星石「し、真紅ぅ!」 唯(Nのフィールドってそんなに広いのかなぁ) 紬(迷子になる位広いのかしら) 梓(もしかして迷子になるのを恐れて…?) 律(なんだ? Nのフィールドってそんなに危険な所なのか?) 澪(なんか嫌な予感がする…) ‐‐‐えぬふぃ! 真紅「……」スタッ 真紅「来たわよ水銀燈! 姿を表しなさい!」 水銀燈「クスクス…ちゃんと来てくれたのね、貴方のその不細工な顔が見れて嬉しいわぁ…、クスクスッ」 真紅「……」 水銀燈「あらぁ? 今日は貴方が馴れ合ってる他の姉妹は連れて来なかったの?」 真紅「えぇ、2人っきりで話がしたかったのよ」 水銀燈「…話ぃ?」 真紅「……水銀燈。私は貴方と戦いたくない」 水銀燈「はっ、戦いたくない? アリスゲームを、お父様を否定する気? お父様の望みに逆らうって言うのぉ? 真紅ぅう!?」 真紅「違う! 私は聞いたのよ、お父様の声を! お父様は確かにおっしゃった。アリスになるにはアリスゲーム以外にも方法があると! だから私は…」 水銀燈「真紅…自分で何を言ってるかわかってるの? お父様を侮辱してるのよ!? 許さない…許せない許せない許さない許せない許さないわ絶対に許さないわよ真紅ぅううう!!」 真紅「本当に、本当なのよ! 信じて!」 水銀燈「私が信じてるのはお父様だけよ!!」 真紅「水銀燈…!」 水銀燈「黙りなさい!」 ガガガガッ 真紅「っ…!」 水銀燈「私は…私はアリスゲームに勝って!」ガッ 水銀燈「アリスになって…お父様の望む完璧な少女になって! お父様に会って! お父様にお前はここに居ていいんだって、お前は決して壊れた子なんかじゃないんだって頭を撫でてもらって! 微笑みかけてもらって!」 水銀燈「わかるぅ真紅ぅう!?アリスゲームに勝つ以外にアリスになる方法なんてない。アリスになる方法は他にもあるなんていう甘い甘い砂糖菓子みたいな考えを持つ貴方には、絶対にアリスゲームに勝ち残りアリスなると決心した私には勝てないのよぉ!! だから貴方は弱い! だから貴方は私に勝てない!今日だって私は貴方に勝つわよ真紅ぅううう!!!」 ドガガガガガガッ 真紅「うっ…ぐぅう…うああ!」 水銀燈「クスクス…弱い弱い弱いわぁ! ああ待っててくださいお父様! 私はもうすぐアリスに一歩近づき…」 真紅「す…ぃ……んと…」 水銀燈「なぁに? 何か言いたいのぉ? 一応聞いてあげるわ」 真紅「ハァ…ハァ……さっきの話は…本当…ょ…」 水銀燈「…よくもこの期に及んでそんな事…っ! 恥を知りなさい!」 真紅「きゃあっ!」 水銀燈「嘘をつかないで! アリスになる方法はアリスゲーム以外にないのよ!!」 真紅「嘘じゃ…な……くぅっ!」 水銀燈「真紅ぅうううう!!」 ‐‐‐そのころ! 唯「あちあっ! あ、指輪…うあぁっ、あっついよぉ!」 梓「ん…指輪があっつい…?」 律「どうした2人共!?」 金糸雀「これはまさか…」 紬「ど、どうしたの?」 雛苺「恐らくNのフィールドで真紅と水銀燈が戦っているみたいなの…」 澪「アリスゲーム…!」 雛苺「うぃ…」 翠星石「蒼星石っ」 蒼星石「うんっ」 澪「ふ、2人共どこに行くんだ!?」 蒼星石「真紅達の所へ……行こう!」 翠星石「です!」 ピカァッ 澪「ま、待って!」 ピカァッ 唯「銀ちゃんが……い、行かなきゃ!」 ピカァッ 律「おい、待てよ!」 紬「私達も行きましょう、ヒナちゃん」 雛苺「うん!」 金糸雀「カナも行くかしら!」 ピカァッ… 真紅「ハァ…あっ…、くっ!」 水銀燈「無様ねぇ…自分でもそう思わない真紅ぅ?」 真紅「ふぅ…っ…黙りな…さい!」 ピッ 水銀燈「……いたぁい」 水銀燈「ねぇ真紅、貴方はそこでただただ何も出来ずに醜く這いつくばっていればいいのよぉ?」 水銀燈「反撃する必要なんてないわ…私が壊してジャンクにしてあげるから! ふふっ…!」 ガガガガッ 真紅「……っ」 水銀燈「いい格好ねぇ…愉快だわ、心底愉快! ヘソで茶が沸くわぁ。クスクスッ…ふふ、ふふふ! キャハハハハッ!」 真紅「……ぃ…」 水銀燈「何?」 真紅「それ、でも、私…は……なたと、戦いた…くな…ぃ…」 水銀燈「……っ、いい加減に…!」 ‐‐‐えぬふぃ! 澪「ここは…?」 翠星石「水銀燈の夢の世界です」 唯「ここが、銀ちゃんの…」 紬「廃墟だ立ち並んで…少し怖いわ…」 ガガガガッ 蒼星石「!」 律「おい、あっちから何か音がするぞ!」 雛苺「うゆ…もしかしてあっちに真紅と水銀燈が!?」 梓「皆、行きましょう!」 梓(真紅…!) 水銀燈「ハァ…ハァ…」 真紅「……」 水銀燈「こんなにいたぶってもまだジャンクにならないのぉ? 本当無駄にしつこいわねぇ…早くローザミスティカ渡しちゃいなさいよぅ」 真紅「……それでも」 水銀燈「?」 真紅「それでも、いつまでもとどめを刺さないのはどうしてなのかしら…?」 水銀燈「……」ピクッ 真紅「貴方がさっき言っていたように、早くローザミスティカを渡してほしいなら、なんでとどめを刺さないの?」 水銀燈「……」 真紅「貴方は、本当は私が言った事が気になってる…本当にアリスゲーム以外でアリスになれるのか気になって仕方ないのだわ」 水銀燈「…るさい」 真紅「だから悩んでる…私を『壊れた子』にしていいのか…」 水銀燈「そ、んな訳ない…! 私は貴方が憎くて憎くて!」 真紅「貴方は本当は…」 水銀燈「違う…そんなはずない!」 真紅「アリスゲームをしたくない! 戦いたくない! それが貴方の本心よ!」 水銀燈「ちが、うぁ…んなはず…ない……ちがう、ちがうちがうちがう違う違う違う違うのぉううううああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」 タッタッタッ 唯「ハァ…ハァ…」 梓「ハァ…ハァ……」チラ 梓(唯先輩…水銀燈って人形の事考えてるのかな…) 唯「ハァ…ふぅ…」 律「…あっ、あれ! 水銀燈と真紅じゃないか!?」 金糸雀「本当かしら!」 唯「銀ちゃんが…行かなきゃ、私がとめなきゃ!」 水銀燈「……」 真紅「……」 水銀燈「…言い残す言葉は考えたぁ?」 真紅「いいえ、全くよ」 水銀燈「そう、せっかくこの剣で首を抉られてジャンクになる前に何か一言いい残させてあげようと思ったのに…」 真紅「……早くすればいいわ」 水銀燈「だぁめ、焦らして焦らして最後に抉ってやるのよぉ。ふふっ…」 真紅「…やっぱり、1つ言い残していいわね?」 水銀燈「…何?」 真紅「貴方、変わったわ」 真紅「アリスゲーム以外にもアリスになれる方法があるって聞いた時、無意識かもしれないけれど目に少し希望が宿ってた」 真紅「それからの貴方の攻撃は、鋭いものではあったけれど戸惑いのせいか少し手加減してくれていた気がするのよ」 真紅「もしかしたらと期待を込めて、私は再度言ったわ。貴方と戦いたくないと。だから私はもう一度言うわ」 真紅「…貴方と戦いたくない…これ以上貴方を傷つけたくない」 水銀燈「……、…っ」 水銀燈「……遅いわよ。…さようなら」 真紅「……っ」 ヒュッ 唯「駄目ーーーっ!」 水銀燈「!?」 真紅「!?」 唯「ハァ…ハァ……けほけほっ」 水銀燈「唯…あんたどうしてここに!」 唯「はぁ、ひゅぅ……銀ちゃん! やめようよ、こんな、姉妹で傷つけ合うなんておかしいよ!」 水銀燈「…お父様が望んでいるのよ……何も知らないくせに!」 唯「そのお父様は『アリスゲーム』を望んでたの!? それとも『アリス』を望んでたの!?」 水銀燈「……!」 唯「聞いたよ…アリスゲーム以外にもアリスになる方法はあるんでしょう? なら一緒にその方法を探していこうよ! 私は銀ちゃんと、一緒に過ごしたい!」 水銀燈「……っ…」 タッタッタッ 金糸雀「おーい、皆ぁ」 律「やっ、と追い付いた…ぜ…ひぃ…ふぅ…」 紬「唯ちゃんってば意外と足速いのね…」 翠星石「あっ、真紅! 水銀燈!」 梓「し、真紅! 大丈夫?」 真紅「平気よ…このくらい」 梓「良かった…」 真紅「それより…水銀燈を」 唯「……銀ちゃん」 水銀燈「……ょ」 唯「えっ?」 水銀燈「遅いのよ! もうなにもかも遅いのよぉ!」 水銀燈「今更もうアリスゲームをしなくていいなんて言われて信じる訳ないでしょぉ!? それに私はもう色々なものを壊して来たわ!なのに今になってもう戦いたくないなんて…出来ないのよ! 私にはもう出来ないわぁ! 砕けたブローチはもう元通りにはならないのよ!?私はアリスにならなくちゃ…お父様をこれ以上悲しませてはいけないの!だから早く早くアリスにならなくちゃいけない。アリスゲームに勝たなくてはいけない。なのに急にアリスゲームをしなくていいだなんて…信じられないのよ!もし違ったら? あの道化兎の悪戯で、ただの嘘だったら? そう考えるともう駄目なのよ! だって、もし、信じて裏切られたら私はどうすればいいの?もう裏切られたくない。だから確実な方法をとらなくてはいけないの! …なのに……!」 真紅「水銀燈…」 水銀燈「私は…私は信じきれないのよぉ!」 パアァ… 唯「空が、明るく…?」 真紅「あ…あの光は…!」 7
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制服のデザイン仮 本編は春~夏にかけてなので、制服デザインを2パターン用意する必要がある 春=ブレザー 夏=半袖 基準は実際に存在する学校の制服をアレンジして使う手法で考える 半袖については某エロゲーのアレンジ予定 リボンやネクタイの設定 学年ごとにリボンとネクタイの色が変わるという設定 1学年=赤色 2学年=黄色 3学年=青色 リアルっぽくするために? 男と女で全然違う制服みたいなものを無くす 乳袋は描かない 肩パッドはリアル並みで、装飾品は適当に? でも何もないのは困る スカートふりふりにすればいいんじゃね? ブレザーにワンポイントとかあると良いと思うよ知らんけど 装飾品は適当に?チョーカーとかブレスレットとか
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職員室。 翠星石が、ニヤニヤしながら水銀燈のイスに何かを仕掛けている。 水銀燈のイスには、座布団がありその下に何かを仕掛けたようだ。 どんな反応をするか楽しみですぅ。と、ニヤリと笑う翠星石。 そして、その仕掛けが発動する時が来た。二時間目終了時の休み時間。 授業を終えて、戻ってきた水銀燈が自分のイスに座る。 ブゥウウーーーーー。と、鈍い音が水銀燈を中心として広がる。 水銀燈「え?!」 一体何が起こったのかわからない水銀燈。 一斉に職員室に居た者全ての視線が水銀燈に集まる。 水銀燈を見る全員に「違う、違うのよ!?」と、慌てる水銀燈。 それを見ていた翠星石は、イタズラ成功とニヤソと小さく笑った。 顔を赤くして一人今の音に、違うのよ!? と、言っている水銀燈だったが…… 真紅にポンッと肩に手を当てられそちらを見る。 水銀燈「真紅ぅ! あなたなら分かってくれるわよねぇ?! 今のは違うって!」 ライバルである真紅に、同意を求める水銀燈。其処まで切羽つまっていた。 真紅「大丈夫よ水銀燈」 あぁ、我がライバルはちゃんと分かって…… 真紅「欧米ではゲップが失礼で、今の行為は全然大丈夫だわ」 いなかった。 うわぁーん。と、いつもの水銀燈らしくない声を上げて職員室を後にする水銀燈。 そして、次の時間が始まると、また翠星石だけが職員室に残る。 雛苺もいるのでは? と、思うのだがどうやら何処かに出かけたらしく職員室には居ない。 翠星石は、直ぐに水銀燈のイスから仕掛け「ブーブークッション」を回収する。 そして、次に目をつけたのは真紅のイス。 くんくんクッションの下にブーブークッションを仕掛けてまたニヤソと笑う。 次が楽しみですぅと、やっぱり笑う翠星石。 そして三時間目が終了して、水銀燈は戻ってはこなかったが真紅と他の教師たちは戻ってくる。 そして、真紅が自分のイスに座った瞬間……水銀燈の時よろしく「ブゥウウーーー」と、鈍い音。 真紅「…………」 固まる真紅。やっぱり水銀燈の時と同じく一斉に職員室に居た者から見られる。 しばらく固まっていた真紅だったが、ガタッとイスから立ち上がると顔を真っ赤にして職員室を出て行った。 イッヒッヒッヒと、翠星石は笑う。 そして、四時間目が始まるとやっぱり翠星石以外誰も居なくなる職員室。 教頭ぐらい居てもいいものなのだが、いつもの如く逃げる馬鹿校長と追いかけっこで不在。 素早く真紅のイスから仕掛けを回収し、次はダレのイスにしかけようかなと考え。 自分の親友の顔が浮かぶ。 初心な親友だ、もしこれが炸裂したらどんな反応をするのかとニヤリと笑う。 そしてすぐさま蒼星石のイスに仕掛けを仕掛けるが 「楽しそうなのだわ?」 翠星石「そりゃ楽しいですよ。このイタズラが成功した時の嬉しさといったら」 「へぇ~詳しく教えて欲しいわねぇ~その嬉しさ」 「僕もちょっとしりたいかなぁ?」 ピタッと、翠星石の動きが止まる。今私に話しかけたのは誰? だわ? ねぇ~? 僕? ギギギッと、錆びきれた機械の様に首だけを声のした方に回す。 翠星石「………………」 鬼が三人居た。 気のせいか、目がかなり光ってる真紅。 心なしか、その美しい銀色の長髪が、逆立ち動いているように見える水銀燈。 さわやかな笑みを浮かべているのに、なぜか黒い蒼星石。 そんな三人の共通点は、ズゴゴゴゴと音など聞こえないはずなのに何故か聞こえる威圧感。 やばい。と、直感的にそう思う翠星石は行動に出た。 翠星石「三十六計逃げるにしかずですぅ!」 と、我が愛すべき馬鹿校長の特技を使わせてもらう。つまり逃亡。 しかし、その逃亡は失敗に終わる。 いつの間にか翠星石の前に移動していた蒼星石によって。 翠星石「はわわわわわ」 そして、後ろからガシッと肩をつかまれる翠星石。 真紅「さぁ」 水銀燈「ちょっと」 蒼星石「逝こうか」 ズルズルと引きずられていく翠星石。 翠星石「私がわるかったですぅーーー。やめて、やめ、いぃぃいいいいやぁああーーーー!!!!」 翠星石の絶叫が、校舎に響いた。 今回の教訓。 自業自得、因果応報。
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前ページ次ページローゼンメイデン 小ネタ集 ヨウラン「おーい、シン。また、お前宛、ゲッ!」 水銀燈「なぁに? 失礼な人間ね。シンなら今は留守よぉ」 ヨウラン「そうか、それじゃまた」 水銀燈「お待ちなさぁい。シンへの届け物なら私が預かるわぁ。 貴方が引き返したら私がまるで留守番の一つも出来ないみたいじゃない」 ヨウラン「そ、それはそうだが…まぁ、えーとコレだ」 ―カートには大量の手紙の束と贈り物多数 水銀燈「……コレ全部なの?」 ヨウラン「ああ。それと、こっちはレイの分だが(同じくカート一杯)」 薔薇水晶「なら、預かる」 ヨウラン「そうか。じゃ、確かに届けたからな。……勝手に弄るなよ。俺は知らないからな(脱兎)」 水銀燈「解ってるわよぉ。ふん! しかし……もてるみたいね。私達のミーディアムは」 薔薇水晶「エリートらしいから。……赤い服を着た人間って」 水銀燈「そうなのぉ? シンはそういうの話してくれないわ」 薔薇水晶「貴女は何時も帰って来たら、おねだりと文句ばかり」 水銀燈「なっ! それはシンがだらしないし、私の言う事を聞いてくれないからよぉ!」 薔薇水晶「けど、それで何も言わせて無いんじゃ? レイは良く話してくれる」 水銀燈「……くっ、何よぉ。私が悪いみたいじゃなぃ(ぷいっ」 薔薇水晶「……しかし、人間は不思議ね」 水銀燈「……なにが?」 薔薇水晶「こんなにたくさんモノをよこして」 水銀燈「そうねぇ。手紙に、プレゼントと言う奴ばかりこうも沢山」 薔薇水晶「……確か……そう、電話。あれですぐ話せるのに。わざわざ字にするなんて不思議」 水銀燈「何が書いてあるのかしら?」 薔薇水晶「こういうのは勝手に開けてはいけない筈」 水銀燈「……気にならない?」 薔薇水晶「……少し」 水銀燈「一個位見てもばれないわ。特にこのヤガミとか言う人間のは沢山来てるし」 薔薇水晶「けど、私達じゃ文字が読めない。きっと難しい字を使っている筈」 水銀燈「……それじゃ、暇そうな人間を一人捕まえて読ませればいいんじゃなぃ?」 翠星石「で、翠星石の所へ来たですぅ?」 薔薇水晶「貴女のミーディアムが一番暇そうだから」 メイリン「あのぉ、別に私は暇って訳じゃ。ただ、戦艦には3人ずつオペレーターが配備されるからね?」 翠星石「確かにメイリンは仕事場でも暇そうですぅ」 メイリン「翠星石ぃ~」 水銀燈「細かい事は良いわぁ。コレを読んで頂戴」 メイリン「コレは……シン宛ての手紙? どうしたの?」 水銀燈「ゴミ箱に捨ててあったのよぉ」 薔薇水晶「(……嘘)」 水銀燈「(どうせ、後で私が全部捨てるから同じよぉ)」 メイリン「あーー、シンこういうの物臭だからねぇ。まぁ、捨ててあるのならどうしようと勝手よねぇ♪」 翠星石「皆でネタにして愉しむですぅ(酷」 (一応プライバシーの為内容割愛) メイリン「~~あなたの愛しのハヤテ・ヤガミよr(途中で奪われる)」 水銀燈「(剣で串刺しにした後17分割)」 薔薇水晶「……凄い内容だった」 翠星石「妄想炸裂だったですぅ」 水銀燈「このドロボウネコ! 手紙だからって好き勝手に書き過ぎよ! 誰の頭の中だろうがシンは私のものよ!(手紙を踏みつけながらも周りが見えてない)」 メイリン「噂どおり激しいのね。水銀燈って」 薔薇水晶「何時も彼のことになるとこんな感じ」 翠星石「まったく、水銀燈も変わってしまったですぅ」 シン「な、なんなんだよ! 今日は帰って来てから!」 水銀燈「おだまり! 何処の馬の骨か解らない女に色目ばかりを使って! 私という者がありながら許せないわぁ!(ごすっどすっ)」 シン「いたたたっ。おい! 今のはほんと痛かったぞ!」 水銀燈「今日はシンが解るまで! 私はぁ! 殴るのを止めない!」 シン「何をするだーーー!!(泣」 レイ「今日は一段と激しいな。……何かあったのか?」 薔薇水晶「……知ってるけど、知らないって事にしなきゃいけない」 レイ「……ふむ。そうか」 薔薇水晶「そうなの。ごめんなさい」 レイ「なら、仕方ないな(パソコンを起動させて例の板へ)」 薔薇水晶「何をしているの?」 レイ「少し、シンが心配でな。他の人に相談してるんだ」 薔薇水晶「……レイは彼に優しい」 レイ「そうか?」 薔薇水晶「そうよ」 レイ「……そうかもしれないな(ふっ)」 前ページ次ページローゼンメイデン 小ネタ集
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夢の内容について、水銀燈と話を付き合わせてみると、同じ場面を見ていたことが明らかになった。 唯一の違いは、視点。私と、彼女は、別個の視点で、あの状況を観察していたの。 私の夢が、指輪を介して水銀燈に流れ込んでいるのだとしたら、私の視点を共有している筈なのにね。 別個の視点の存在とは即ち、彼女もまた別の人物として、私の夢に登場していた事を意味した。 水銀の君として――――ね。 「どうやら……めぐと私には、浅からぬ縁があるみたいねぇ」 「夢の導くままに見た光景が、本当に、私の前世の記憶だとしたらだけど」 あまりにも突飛な発想だから、俄には信じがたい。たま~に、そんな話を聞くけれど、ホントかしら。 前世の記憶って、身体が失われた時点で、消えちゃうモノなんじゃないの? 私なりの考えを伝えると、水銀燈は、 「柩は書庫に成り得ない。その逆ならば、あり得るけどぉ」 と、目を細めた。いきなり、抽象的なことを言われても困る。 眉を顰めた私を見て、水銀燈は愉快そうに、ころころと笑い出した。 なんだか馬鹿にされてるみたいでムカついたので、私は無い知恵を絞って考えた。 これで熱でも出たら、水銀燈のせいなんだからね。 「要するに、この身体は魂の入れ物でしかなくて、魂こそが記憶の保管場所だって言うの?」 「あらぁ……おばかさんにしては、察しが良いじゃなぁい」 「貴女って、いつも一言、余計よね。そんな態度じゃ、誰からも嫌われちゃうわよ」 言われっぱなしじゃ悔しいから、時速150キロの皮肉を叩き付けてやった。 でも、概念は把握できた……気がする。パソコンに置き換えてみれば、肉体はHDDとか、 CDRWやDVD-Rみたいな大容量の記憶媒体で、霊魂はSRAMやDRAMなんじゃないかしら。 その中でも、本当に重要な記憶だけがDRAMに残され、“死”というシャットダウンでも消えず、 日常生活で利用頻度の高い記憶は、揮発性のSRAMに記録されているからリセットされてしまう――と。 水銀燈と出会って、この指輪を嵌めてから……私は、過去の記憶を夢に見始めた。 そして、前世の私は、彼女に対して並々ならぬ感情を抱いていたことを知った。 これってつまり、魂に記憶されるほど、私にとって彼女が重要で、大切な存在だったことの証拠よね。 (千年を隔てても、色褪せない記憶【想い】かぁ……正に、愛は永遠の夢なのね) 私は、しみじみと左手の薬指に癒着している薔薇の指輪を見つめた。 このデバイスによって、私と水銀燈は、お互いが持っている様々な情報を共有できる。 水銀燈に私の精気を供与するだけの、一方通行な物かと思っていたけれど、意外に多機能みたい。 要は、数多の性能を生かすも殺すも、使い方次第ってコトね。 「貴女のこと――昔みたいに、水銀の君って呼んだ方が良いのかな」 「水銀燈で良いわよ。格式張った呼ばれ方されると、背中がむず痒いわぁ」 私の憎まれ口を受けて憮然としていた水銀燈は、鼻先でせせら笑った。 まあ、そうよね。今の時代に『~の君』なんて呼称は、そぐわないし。 それに、私は名前で呼んであげたいもの。親しみを込めて、彼女の名前を―― 「ねえ、水銀燈。貴女はどうして、この病院に居たの? ひょっとして――私を探してくれてた?」 「…………さぁね。私、めぐに会うまでの記憶が、はっきりしないのよ。 指輪を通して、めぐの夢を見るようになってから、徐々に思い出してきてるけど、 どうして死んだのかも憶えてないわぁ」 「そうなんだ……ざぁんねん。ちょっと、期待してたんだけどなぁ」 貴女を想うあまり死んでも死にきれず、亡霊となって彷徨っていた―― なんてドキドキすること言われてみたかったけど、そんな話は身勝手な幻想よね。 あれ? でも……ちょっと待って。 自分の死因すら解らない人が、どうして薔薇水晶のことを、疫病神だなんて言えるの? 私の胸裏で、ひとつの疑惑が浮かび上がった。 (まさか――水銀燈は、厄介払いする為だけに薔薇水晶を貶めた?) だとしたら、許せない。たとえ水銀燈でも、絶対に。 もし訊ねたら、彼女はどんな顔をして、どんな弁明をするのかしら……。 心の奥底で、水銀燈を信じたいと思いながらも、一旦芽生えた疑心は簡単に拭えなかった。 すると―― 「ふ……それこそ『まさか』だわぁ。これでも、私は鬼の血を引く陰陽師よ。 私の紅い瞳は、堕天の逆十字を背負いし者の霊波動を見逃したりしないわ」 水銀燈は自分の眼を指差しながら、事も無げに答えをくれた。 真剣に考えていた私が、優に十秒間は呆気にとられてしまうほど、アッサリと。 もしかして、気付かない内に声に出てたのかしら。いやいや、そんな筈ない……と思う。 「どうして、私の考えてる事が解ったの?」 「勿論、その指輪から、めぐの考えが流れ込んできたに決まってるじゃなぁい」 「ちょっ!? それ、ホント?」 冗談じゃないわ! 私のプライバシーは、どうなるのよっ! お腹すいたとか、トイレ行きたいとか、全て水銀燈に筒抜けって事でしょ。 それに…………水銀燈への想いも……。 「嫌ぁぁっ! 殺してっ! いっそ殺してぇっ!」 「ち、ちょっと、めぐ。落ち着きなさいよぅ」 「落ち着けるわけ無いでしょ! 羞恥どころか屈辱よ、これ! 死んでやるわ私っ」 「そこまで思い詰めなくてもぉ……ウソなのに」 「……はあ? ウソぉ?」 「めぐの考えてることぐらい、顔を見てれば直ぐに察しがつくわよぉ。 本当に、冷やかしがいのある、お馬鹿さんねぇ♪」 例によって、私はからかわれていたらしい。いつもいつも……やってくれるわね。 せめてもの御礼にと、水銀燈の頭に花瓶を投げ付けておいた。 それは、さておき。私の中では、更に別の疑問が生じていたわ。 水銀燈が、普通の人間とは異なる霊波動の持ち主と認識した、彼女のことよ。 (――薔薇水晶は、何者なの? なぜ、私の命を削り取っていたの?) 一年以上も親友として付き合ってきた私は、どうしても薔薇水晶に好意的な目を向けてしまう。 彼女が、私に危害を加えるなんて、考えられない。まして、命を奪うだなんて。 私にも水銀燈みたいな能力が備わっていれば、解るんだろうけど――私は、解りたくもない。 解ってしまう事は、必ずしも幸せじゃないって、知っているから。 昔の人は、よく言ったものね。『知らぬが仏』だなんて、さ。 独りで考えてても、同じところの堂々巡りで、答えが出せない。 私は、隣で目に涙を溜ながら頭のコブをさすっている水銀燈に、薔薇水晶の素性について問いかけた。 「ハッキリとは解らなかったけれどぉ」と、顎に指を当てながら、水銀燈は答えてくれたわ。 「あの娘、もの凄く禍々しい気配を放っていたわ。私ですら、背筋に震えが走るくらいにね。 あのまま付き纏われてたら、かなりヤバかったわよぉ」 「でも……彼女は、いつでも微笑みをくれたわ。天使のような、可愛らしくて素敵な笑顔を。 いつだって私の側に居てくれて、いつだって私を励ましてくれたのよ? それなのに――」 「…………あのねぇ、めぐ。腹に一物ある奴ほど、愛想よく近付いてくるものよ。 めぐを油断させるために顔で笑って、腹の底では黒々と嗤っていたのかもぉ」 「やめてっ!!」 水銀燈の言葉が胸に刺さって、痛い。私は両手で耳を塞いで目を瞑り、絶叫した。 これ以上、薔薇水晶を侮辱する言葉を聞きたくなかったから。 それ以上、水銀燈に罵詈雑言を吐いて欲しくなかったから。 「それでも、私は薔薇水晶を信じてるの! 彼女の笑顔に癒されてきたの! だから…………もう……止めてよ」 胸の奥から押し出される激情が、私の目から、涙を溢れさせた。 張り裂けそうな胸の痛みが、私の喉から、嗚咽を吐き出させた。 親友を弁護しきれない悔しさと、無力な自分への憤りと悲しみとが、綯い交ぜになった苦い感情。 あまりの苦さに舌が痺れて、私は続く言葉を失っていた。 両手で顔を覆い、子供の様に泣きじゃくる私の頭を、 「…………ごめんね、めぐ」 水銀燈は両腕で包み込み、柔らかな胸に導いてくれた。薔薇の指輪を通じて、慈しみの感情が流れ込んでくる。 彼女の冷たい胸の中で、私は思いっ切り、涙を流した。 少しでも、私の涙が彼女の温もりに変わればいいと祈りながら、声をあげて泣き続けた。 「……落ち着いたぁ?」 「ええ……なんだか、スッキリした」 こんなに泣き喚いたのは、久しぶりだった。だから、なのかな。 澱のように沈滞していた蟠りも、しがらみも、全てが綺麗サッパリ、涙に押し流されていた。 心機一転、明日を夢見る勇気を、取り戻せた気がするわ。 ならば早速、行動に移ろう。何もしない者に、後悔する権利は無いのだから。 「ねえ、水銀燈。一緒に、薔薇水晶を探しに行こう?」 こんな提案、即座に拒否されると思っていたけれど、水銀燈は意外にも賛成してくれた。 さっきは言い過ぎたと、彼女なりに反省して……るのかな? 「めぐが、そこまで信じてるなら、心底悪い奴じゃあないだろうって思ったのよ」 また、水銀燈は、私が訊くより早く言った。どうやら本当に、私って感情が顔に出やすいみたい。 今度から、気持ちを先読みされない様に、気を付けなくっちゃね。 探し回るに当たって、取り敢えず、水銀燈にはパジャマに着替えて貰った。 ただでさえ銀髪と美貌が人目を惹くのに、看護士の制服なんか着てたら、目立って仕方がないものね。 パジャマは、私と同じもの。三着ほど用意してあるスペアの一着を、貸してあげた。 これなら、少しは普通の患者に見えるでしょ。疑いの目を向ける者も、ぐっと減ってくれる筈だわ。 お揃いのパジャマ姿で、私と水銀燈は、薔薇水晶の探索を始めた。 胸が窮屈だとか、余計なコトを口走る彼女の脇腹に肘鉄砲を食らわせて、探索に集中させる。 ……が、病院という場所は思っている以上に千差万別の“気”が満ち溢れているらしく、 未だに本調子じゃない水銀燈は、かなり苦戦している様子だった。 「彼女の霊波動を辿るより、手分けして探した方が早いわねぇ」 「珍しいわね、水銀燈が弱音を吐くなんて」 「……弱音じゃなくて、提案よ。ホントにおバカさんなのねぇ。言葉は正しく使いなさいなぁ」 「はいはい。だったら、水銀燈は病棟を探して。私は、外を見てくるから」 ひと通り見回ったら、一階のロビーで落ち合おうと打ち合わせて、私たちは別れた。 エレベーターで下まで降りた私は、ロビーのソファに座って、ボ~っとテレビを見ている患者達を眺め回した。 そこに薔薇水晶が居ないことだけ確認して、ロビーを横切り、南に面した正面玄関から外に出る。 今朝は晴れていたのに、いつの間にか、空は厚い雲に覆われていた。降り出す前に、病棟を一周してこよう。 私は駐車場の脇を通って、病棟の裏手へと向かった。彼女がまだ帰ってなければ、そこに居る予感がしたから。 だって、あなたとひまわりを見に行く約束だものね。この近くで向日葵を植えているのは、北側の花壇だけよ。 曇天が、霧吹きを使い始めたらしい。 私の頬を細かい水滴が打ち、パジャマが湿気を帯びて重たくなっていく。 急がないと! 小走りに花壇を目指す私の目に、向日葵の前で佇む少女の姿が、飛び込んできた。 緩くウェーブのかかった長い髪。水晶を象った髪飾り。そして、白い肌。 間違いない、薔薇水晶だった。 「薔薇水晶っ!」 私は嬉々として彼女の名を呼び、駆け寄った。 約束の場所とは違うけど、それでも、二人だけの合い言葉を確かめ合いたかったから。 彼女が、いつもの微笑みを向けてくれると信じて、微塵も疑っていなかったわ。 でも、薔薇水晶は、ぼぉ……っと向日葵の蕾を見上げているだけ。 「よかったわ……怒って、もう帰っちゃったかと心配してたのよ」 間近で話しかけると漸く、私の方を向いてくれた。それも、人形のように、ぎこちない動作で。 彼女の頸が立てる、ぎぃぎぃという軋めきが聞こえた気がした。 綺麗に澄んでいた金色の瞳も、今は曇っていて、意志の輝きを感じさせない。 「ど……どうしたの? ねえ、ちょっと。ねえったらっ! 薔薇水晶っ!」 「…………」 私は、彼女の両肩を掴んで、激しく揺さぶった。途端、撥ね除けられる私の両腕。 薔薇水晶は、ビックリして身を竦ませた私の背後に素早く回り込んで、頸に左腕を巻き付かせてきた。 右腕を掴まれ、遠慮も手加減もなく後ろ手にねじ上げられた痛みで、私は呻いた。 「い、痛いっ! 何するのよっ!」 「……なに……するの?」 「ふざけないでっ!」 「……ふざけないで?」 薔薇水晶は薄ら笑いながら、おうむ返しに囁くだけ。 彼女の尋常ならざる態度に、私は寒気を覚えた。この娘は、私の知っている薔薇水晶じゃない。 おそらくは、水銀燈が感じたという、禍々しい気配を放っていた薔薇水晶なのだ。 私の恐怖を煽り立てるように、暗雲の中を光が走る。 続いて、お腹に響いてくる重低音。言わずもがなの雷鳴だ。 長く低く、空気を震わせる雷鳴の合間に、男性とおぼしい高い声が、もつれ合う私たちに話しかけてきた。 「よくやったぞ、薔薇水晶。そのまま捕まえておけよ」 「!? あ、貴方は――」 声のした方に眼を向けた私は、目を見開いて、呆気に取られてしまった。 向日葵を掻き分けて現れた、その人物は――夢で見た、小柄な青年だった。 「慈雲童子っ!?」 「くくっ……懐かしい響きだねえ。その名で呼ばれるのは、実に千二百年ぶりだよ。 今は、桜田ジュンと名乗っているんだけどな」 「桜田……ジュン?」 「また会えて嬉しいよ。柿崎めぐ――いや、夢占の巫女」 「巫女? 夢……占? なにを言ってるの?」 私には彼の言うことが理解できなくて、バカみたいに、彼の言葉を繰り返すだけだった。 そんな私に、絶え間なく嘲笑を送り続けてくる、桜田ジュン。 「何度も転生していながら、まだ、自分の能力には気付いてないのか。まあ、どうでもいいさ。 どうせ、もうすぐ君の能力は、僕のものになるんだからな。 さあ……左腕を伸ばせよ。僕の右手に、君の左手を重ね合わせるんだ」 彼の視線が、私の瞳を射抜く。私の左腕は、私の意志に反して、ゆっくりと上がり始めた。 「千二百年前は、あと少しのところで邪魔されたけれど、今度こそ夢占の能力を貰い受けるぜ」 能力を奪われる事が、どういう結果を招くのか、私には解らない。 それ以前に、頭がぼぅっとして、深く物事を考えられなくなっていた。 目の前が暗転していく。なんだか、とても眠くなっていく。 私の意識は、奈落へと落ちていった。地の底から、誰かの声が聞こえた――気がした。 ――気が付けば、私は土の上に跪いていた。煌びやかな十二単が、泥にまみれている。 周囲には、横倒しになった牛車や、衛士たちが倒れていた。 死んでいるのか、ピクリとも動かない。 そして……目の前には、慈雲を取り囲む、三人の娘たちが居た。 水銀燈と、翠星石、蒼星石の姉妹だ。三人とも、満身創痍だった。 中央に立つ慈雲は、着衣が破れるどころか、乱れてもいないというのに。 「お前たちも、なかなか頑張るなあ。それだけは誉めてやるよ」 慈雲が、両手で見たこともない印を結び、 「だけど…………そろそろ終わりにしてやる」 「くぅっ! うわぁっ!」 「蒼星石っ?! ひゃぁうっ!」 腕を払っただけで、蒼星石と翠星石は宙に巻き上げられ、地面に叩き付けられた。 身じろぎもせず横たわる二人の周りに、赤黒い液体が、ゆるゆると広がっていく。 そして、私がこの世の誰より1番大切に想っている、水銀燈は―― 雷の刃による、電光石火の斬撃で、細い頸を……断ち切られていた。 「い…………嫌ああああああああぁっ!!!!」 これは、夢。全ては、午睡の夢。現実の私は牛車に揺られて、うたた寝しているだけ。 目を覚ませば、私の前には水銀燈の優しい笑顔がある。 そう思い込もうとした。思い込んで、夢から覚めようとした。 けれど、夢は終わらない。悪夢のような現実が、淡々と続いてゆくだけ。 見たくない事実なのに、涙で曇った目を逸らすことが出来ない。 「あ…………あああ……」 水銀燈の首が、驚愕の表情を貼り付かせたまま、温かい血を流しながら私の方に転がってくる。 まるで、死して尚、私の元へ駆けつけようとしているみたい。 私は泣きながら必死に這いずって、彼女の首に近付き、両腕を伸ばして拾い上げようとした。 その手が、横から無遠慮に伸びてきた男の手に掴まれる。 「次は、君の番だよ」 「ひぃっ!」 喉の奥から漏れた空気が、情けない悲鳴に変わる。 怯え、竦み上がった私を見下ろし、慈雲は嗜虐的に唇を歪めた。 「そんなに怖がらなくてもいいだろう? 安心しろよ。僕が欲しいのは、君の能力だけだ。 用さえ済めば、君も友人たちの元へ送ってあげるから」 「……い……いや」 慈雲のソレは、れっきとした殺人予告。私は、今日、ここで死ぬ。鬼の手で、惨たらしく殺されるのだ。 そう思うと、恐くて、怖くて――身体の震えが止まらなかった。 誰か……誰か、助けて! 心に浮かぶ言葉は、それだけだった。 その間にも、慈雲は常人を凌駕する腕力で、私の左腕を引っ張り続ける。 慈雲の開かれた右手に、私の左手は無理矢理、近付けられていく。 どれだけ抗っても、女の細腕では、引き戻すことすら出来なかった。 このままでは、私の全てが奪われてしまう。恋人も、親友も、自分の能力すらも、全てが。 「ははははっ。もうすぐだ! もうすぐ、僕は夢占の巫女の能力を得る! そして、僕は神になる!」 「嫌っ! こんなの…………だ、めぇっ!」 歯を食いしばって、最後の抵抗を試みようとした矢先、生々しい音と共に、私の左腕は解放された。 勢い余って尻餅をついた私が目を開くと、肘の辺りから切断された腕が、どす黒い血を垂れ流していた。 それは紛れもなく、慈雲の左腕。私の左腕を掴んだまま、ぶら下がっていたのだ。 肌に食い込むほど握りしめられた指を一本ずつ開いて、漸く、慈雲の腕を外すことが出来た。 「その娘から離れなさい! 汚らわしい邪鬼め」 凛とした声が、場の空気を支配した。私は慈雲の左腕を投げ捨てながら、声の主へと顔を向けた。 慈雲と対峙していたのは、水晶の剣を手にした、隻眼の娘……薔薇水晶だった。 腕を切断されて、流石の慈雲も戦意喪失するものと思いきや―― 「ふんっ。お前ごとき落魄した輩が、僕を愚弄するのか。身の程を弁えろよ」 慈雲は、これ見よがしに左腕を掲げた。切断された肘から先が、見る見るうちに再生していく。 「薔薇水晶…………お前はもう、夢占の巫女を守護する霊獣じゃあない。 強大な力を得ようと焦るあまり、浅はかにも、僕の忠実な傀儡に身を窶したんだ。そうだろう?」 にたりと、慈雲が下品に頬を弛めた直後、薔薇水晶は剣を取り落として、苦しげに呻きだした。 彼女が両手で掻きむしって、露わになった胸元には、奇妙な物体が蠢いていた。 広げた手ほどの大きさで、人のカタチをした、不気味な腫瘍が……。
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『粉雪の舞う、この空の下で……』 【一日目】 学園の研修寮は、人里離れた山奥の湖畔に建てられていた。 周囲五キロほどの湖だが、その全てが学園の敷地なのだから驚かされる。 毎年、夏場には運動部の合宿で賑わうらしい。 けれど、冬休み真っ最中の今は、スキー教室に参加した生徒以外に人影は無かった。 「よっ……と、ととっ! うぉあっ!」 ズザァ――っ!! ゲレンデの隅でスノボの練習をしていたジュンは、豪快に顔面着地した。 想像していたよりも難しい。でも、スキーは去年やったし、どうせなら この機会に体験しておこうと思ったのだ。 「大丈夫ぅ、ジュン?」 練習に付き合っていた水銀燈が差し伸べた手を、ジュンは苦笑混じりに握った。 空いた手でゴーグルに付いた雪を払い除けると、彼女の黒いスキーウェアが 視界に飛び込んできた。 黒は女性を美しく見せると何かで聞いた憶えがあるが、実際、水銀燈には黒がよく似合う。 「平気平気。転ぶのは巧くなったし……って、あんま威張れる事じゃないな」 「そぅお? 捻挫とかしてなぁい?」 「ホントに大丈夫だって。持久力が無いだけで、運動神経は鈍くないから」 言って、ジュンは少し離れたところでスキーの練習をしている翠星石に目を向けた。 蒼星石が付きっ切りで指導しているが、上達の兆しは一向に見られない。 転ぶ度に「もう帰るです~」と泣きが入り、蒼星石に宥められては、立ち上がって 練習再開。そしてまた真横にスライディングの繰り返しだった。 「それにさ、真紅の滑りを見せられたら、誰だって気が引けるよ」 「確かに、優雅よねぇ。スノボなら私の勝ちなんだけど」 ゲレンデの上級者コースを振り仰ぐと、銀世界に一際目立つ赤いウェアの少女が 華麗なターンを描いて降りてくるのが見えた。カッコ良すぎる。 生半可な力量で併走したら、惨めな晒し物にされるは目に見えていた。 その真紅と競う様に併走する、もう一人の上級者……柏葉巴だ。 真紅を『剛』とするなら、巴は『柔』 彼女もまた、思わず見惚れてしまうほど蠱惑的な滑りを披露していた。 その脇を、頂上から直滑降してきたソリが猛然と通過していく。 雛苺と金糸雀のタンデムだ。ひょっとして、ボブスレーのつもりか? 暴走特急の進路上にはベジータが居た。だが彼は全く気付いていないらしく、 避けようとする素振りが見られなかった。 「へっ! 見せつけてくれるじゃねえか、紅嬢。だが、ここからが本当の……」 「の――っ! 金糸雀の傘で空力ブレーキなの――!」 「間に合わないわー! こういう時は、も、モルスァ!! かしらーー!」 どごおっ! 「地獄おくりかあぁぁ…………」 暴走特急にはねられたベジータは、謎の絶叫を残しゲレンデの彼方へと消えた。 雛苺と金糸雀のソリは尚も暴走し、不遇な子羊たちを次々と巻き込んでいく。 「お……鬼か、あいつら。こっちに居て正解だったな」 「そうねぇ。HG先生、今日は商売大繁盛だわぁ」 「歩合じゃないから儲からないけどな。あれ? そう言えば、薔薇水晶は?」 ジュンはゲレンデに紫のウェアを探したが、どこにも見当たらなかった。 もしや、既に雛苺と金糸雀の処刑列車で、地獄送りに……。 大変だ。慌ててゲレンデに走り出そうとしたジュンの肩を、水銀燈の手が引き留めた。 「慌てない慌てなぁい。あの子なら湖に居るからぁ」 「湖? なんで?」 「スケートの方が良いって、行っちゃったのよ」 「独りでかよ? それに、スケートの道具なんか用意してあったっけ?」 湖には対岸まで歩いて渡れるほど分厚い氷が張っているから、 氷が割れて冷水に落ちる心配は無いだろう。 けれど、あの儚げな薔薇水晶を独りぼっちにさせておくのは、どうにも不安だった。 「やっぱ気掛かりだな。水銀燈、様子……見に行かないか」 「んふふ……優しいのねぇ、ジュンは」 水銀燈は、端から心配していないのだろう。普段どおりに落ち着き払っている。 考えてみれば、彼女が狼狽えている姿を目にした事は、一度として無かった。 それ故に、心強さと頼もしさを感じる。異性は元より同性にも人気があるのは、 水銀燈の纏っているお姉さん然とした雰囲気が依存心をくすぐるからだろう。 しかし、安堵を覚えたのも束の間。 湖上に紫のウェアが見当たらず、ジュンは表情を強張らせた。 「居ないじゃないか。まさか! 氷が割れて湖に落ちたんじゃあ」 「それは無いと思うけどぉ……あ、見ぃ付けたぁ」 「ホントかよ、水銀燈。何処に居るんだ?」 「あれよぉ、見えるでしょう?」 水銀燈が指差す先には、小振りな『かまくら』が拵えてあった。 あそこに薔薇水晶が? 行ってみるしかないだろう。 「居るのか、薔薇水晶?」 氷上に積もった雪に残る足跡を踏みしめて『かまくら』に辿り着いたジュンは、 そう呼びかけて中を覗き込んだ。 そこには、火鉢に練炭をくべて暖を取りつつ、氷に開けた穴に釣り糸を垂らす 薔薇水晶が居た。彼女はジュンに目を向けて、素っ気なく呟いた。 「…………釣れますか?」 「釣ってんのは薔薇水晶だろ! 大体、なんでスキー教室でワカサギ釣ってんだよ! スケートじゃなかったのか」 「……道具なかったから(orz)…………じゃ、釣ってきます」 「あらぁ、楽しそうねぇ薔薇しー」 ジュンの肩越しに水銀燈が顔を覗かせた途端、薔薇水晶は何故か頬を染めた。 そして、何処から取り出したのか道具一式を二人に差し出した。 「…………いっぺん……釣ってみる?」 「用意がいいのねぇ、薔薇水晶は。お利口ぅさん」 「いや、僕は――」 本音を言えば、水銀燈と一緒に居たい。でも、今は特訓を続けようと思った。 最終日までに、ゲレンデを転ばずに降りられるようになって、 水銀燈と滑りを楽しもうと決めていたから。 それに、実際問題、薔薇水晶の視線が先程から刺さって、いたたまれなくなっていた。 早く、どっか行け。そんな眼をしている。 「折角だけど。水銀燈は暫く、こっちに居て良いよ。練習なら独りでも出来るしさ」 「そぅお? じゃあ、そうするわぁ。怪我に気を付けてねぇ、ジュン」 「……………………魚を釣らば穴二つ」(氷上に、水銀燈の為の穴を開けている) 半ば薔薇水晶に追い払われる形で、ジュンはゲレンデに戻った。 ワカサギの天麩羅が一品増えた夜食を終え、温泉を引き込んだ風呂で 疲れをほぐした乙女達は、真冬の夜のアバンチュールを愉しんでいた。 「……って、なんで部屋の中にロウソク百本も立ててやがるですか!」 「あらぁ、旅に火遊びは必須でしょぉ? 翠ちゃんってば、お馬ぁ鹿さん」 「心配ないよ、姉さん。ちゃんと消化器も用意してあるから」 「これで…………明るくなったらぅ?【百円札】」 「ば、バカ水晶! なに放火してやがるです! 布団を敷いて寝るですから、 さっさとロウソクをどけやがれですぅ!」 「うるさいわよ、貴女たち。読書に集中できないのだわ、まったく。 大体、冬に百物語だなんて馬鹿げてると思わないのかしら?」 「そうでもないわよぉ。アイスクリームは冬に食べてもおいしいもの。 それに、雪女の伝説は、やはり冬場でないとリアリティないじゃなぁい?」 「水銀燈、それって……寮の管理人さんが教えてくれたヤツかい?」 「ええ。真紅も参加しなさいよ。怖いなら、雛苺や金糸雀と一緒に押入で寝てても良いわよぉ?」 「(#^^)いいわ……くだらないけど、特別に付き合って上げるのだわ」 「ふふ、良い子ね。翠ちゃんは、どうするぅ?」 「うぅ…………そ、蒼星石が心配だから、もう少しだけ起きててやるです!」 「よく出来ましたぁ。それじゃあ、そろそろ始めましょうか。私が最初ねぇ」 菓子と飲み物は、一晩語り明かしても充分なくらいの量を確保してある。 皆が緊張の面持ちで固唾を呑む中、部屋の照明が消された。 (さぁて。思う存分、震え上がってもらうわよ。怖がりさぁん) 水銀燈は景気付けにヤクルトをイッキ飲みして、艶っぽく唇を舐めた。 「たとえば――こんな光景を思い浮かべてみて下さい」 「いひぃ――――っ!!」 「ちょっと、姉さん。キミの悲鳴の方が怖いよ」 水銀燈は独り、湯船に優麗な肢体を浸していた。 時刻は深夜、草木も眠る丑三つ時。風呂の使用時間は、とっくに過ぎている。 けれども、水銀燈には皆と一緒に入浴できない理由があった。 真紅たちは今、布団に潜り込んでガクブル状態だ。風呂まで来る心配はないだろう。 打撲や痣の治癒に効果覿面と謳う鉱泉の中で、水銀燈は自らの腹部をそっと撫でた。 幼い頃に負った傷に、痛みはもう無い。 けれど、引き裂かれた心は、如何なる治療を施そうとも決して癒されなかった。 「――めぐ」 微かな水音しか流れてこない世界で、水銀燈の囁きは意外なほど大きく聞こえた。 めぐ――私の幼なじみ。彼女はもう、この世に居ない。 私が、彼女を殺してしまったのだから。 「この傷を抱き続ける事は、きっと……貴女への贖罪なのね」 私が奪ってしまった彼女の未来。この傷を見る度に、それが否応なく思い起こされる。 あの子は私に訴えかけているのだ。私を忘れないで……と。 水銀燈は重くなった気分を振り払う様に、勢い良く立ち上がった。 鎖骨の窪みから零れた水滴が、玉となって彼女の肌を流れ、豊かな胸の尖端から落ちる。 浴室を出て、更衣室の鏡の前に立ち、水銀燈は鏡像の腹部に視線を注いだ。 刻み込まれた傷と手術痕は赤黒く盛り上がり――或いは窪んで――紋様を描きつつある。 まるで、人の顔みたい。見詰めていると、めぐの声が聞こえる気がした。 (ワ タ シ ヲ ワ ス レ ナ イ デ) 「忘れる訳ないじゃない、おばかさぁん。貴女はいつも、私と共に生きているわ」 淋しげな笑みを口の端に浮かべながら、水銀燈は腹部の傷を何度も撫でていた。 風呂上がりのヤクルトを飲みながら部屋に戻る途中で、水銀燈は何気なく外を見遣った。 雪が降っていた。湿気たボタ雪ではなく、はらはらと舞う細雪(ささめゆき)だ。 この分なら、明日の朝は最高のコンディションで滑れるだろう。 ジュンの技量も確実に上がっているし、明日はゲレンデに誘ってみようかしら。 「あらぁ? あれは――」 湖の畔に立つ人影がひとつ。目を凝らすまでもなく、水銀燈にはそれが ジュンだと分かった。水銀燈はパジャマの上に丹前を羽織り、外に出た。 「頑張っているのね、ジュン」 「水銀燈! ひょっとして、起こしちゃった?」 「いいえ。でも、感心しないわぁ。夜更かしなんて」 「それがさ、ベジータの奴、寝相悪いし歯軋りうるさいしで寝てらんないんだよ。 寝言で『ギャリック・フォォー』とか叫ばれてみな、刺したくなるから」 「最近、テンション高いわよね、彼。蒼星石に告白するとか言ってたしぃ」 「まぁね。だけど、巧くなりたいって思ったのも本音だな。転ばない様になって、 早くゲレンデを滑りたかったんだ。水銀燈と……一緒に」 私も同じ事を望んでいた。喉元まで出かけた台詞を、水銀燈は呑み込んだ。 想いが通じ合って嬉しい筈なのに、一方で幸福を拒絶する自分が居る。 「もう休んだ方が良いわ。無理して風邪を引いたら、折角の努力も水の泡よ」 「うん。なんとか、眠る努力をしてみるよ」 ジュンが言い終えるが早いか、水銀燈は立て続けに二度、くしゃみをした。 よく見れば、彼女の美しい髪はしっとりと濡れている。風呂上がりだったのだ。 ジュンは水銀燈の肩に積もった雪を払い除けて「戻ろう」と彼女の背を優しく押した。 【二日目】 朝方の雪は、午後になると吹雪へと代わった。 異変に気付いていなかった訳ではない。山の気候を、都会の天気と同じ感覚で 捉えていただけだ。その甘えが、二人に遭難という現実を突き付けていた。 四方八方、雪と針葉樹林しか見えない。ここは本当に日本かと疑いたくなった。 「参ったな。すっかり方向を見失った」 「ジュン、提案があるのだけど――」 発したばかりの言葉は瞬く間に吹き荒ぶ風に押し流されて、会話も繋がらない。 水銀燈は焦れて、ジュンの腕を引き寄せた。ボードで風を遮り、彼の耳元で怒鳴る。 「これ以上、下手に動かない方が良いわ。ビバークしましょう」 「ビ、ビバーク?」 その言葉を耳にした事は有ったが、では具体的に何をすれば良いのかと訊かれたら、 咄嗟に返事が思い浮かばなかった。 それでも、現状が最悪に近い事は疑いの余地が無い。 ジュンは頷いて、水銀燈と同じ作業に就いた。 ボードを利用して積もった雪を掘り下げ、余った雪を周囲に積み上げていく。 そんな事を暫く繰り返す内に、二人が入れるだけの窮屈なドームが完成した。 ともかく、風さえ凌げれば体感温度はグッと上がる。 風下に設けた穴を潜り、ボードを戸板の代わりにした。風避けと目印を兼ねている。 二人は膝を抱えて、肩を寄せ合った。 だいぶ上達したジュンは昨夜の約束通り、水銀燈を誘ってゲレンデに出た。 リフトで上がり、滑り始めは順調だった。だが途中で体勢を崩し、コースアウト。 転べば直ぐに止まると思いきや全く減速せず、こんな森の奥まで滑落していた。 そして水銀燈も、ジュンを見失うまいと集中するあまり、 何処をどう滑ってきたのか判らなくなっていた。 「ごめん。僕が調子に乗ったせいで、こんな事に――」 「気にすることないわぁ。日没までには時間があるし、 吹雪さえ収まれば、みんなも探しに来てくれるわよぉ」 「うん…………そうだね」 「お喋りしながら、気長に待つとしましょう」 雑談しながら吹雪の止むのを待っていたが、事態は全く変わらなかった。 森の中は既に暗い。 照明替わりに点灯させ続けている携帯電話のバックライトで腕時計を確認する。 時刻は午後八時を回っていた。 さっき、たまたま持っていたチョコレートを水銀燈と分けて食べたので、 空腹感はない。喉の渇きも、雪を口にすることで凌いでいた。 けれども、寒さだけはどうにもならない。日が暮れて、気温は下がる一方だった。 心労のためか、水銀燈も先程から黙り込むことが多くなっている。 「辺りの様子を見てくるよ。この時間なら、部屋の明かりが見えるかも知れない」 「だ、駄目よ! 体力が失われているのに、吹雪の中で迷ったら致命的だわ」 薄明かりの中、決然と立ち上がったジュンの手を、水銀燈が力強く握り締めた。 流石に剣道部だけあって、握力が強い。 それは、どうあってもジュンを引き留めようとする彼女の必死さの表れでもあった。 ジュンは笑顔を作って、水銀燈の手を優しく握り返した。 「心配すんなよ。水銀燈を置いて、そんなに遠くまで行かないって」 「駄目よ! 絶対に行っちゃダメ!!」 「我が侭を言うなよ! このままじゃ埒があかないじゃないかっ!」 思わずジュンが声を荒げた途端、水銀燈はビクリと肩を震わせた。 怯えさせてしまった。ジュンは自分の軽率さを嫌悪した。 心細いのは誰だって同じ。水銀燈だって、懸命に堪えているのだ。 この状況に彼女を巻き込んだのは自分だというのに、怯える彼女を勇気づけるどころか 更に不安がらせてしまうなんて。 (最低な野郎だ、僕は) ジュンは力無く項垂れた。 「ごめん、大声出したりして。だけど僕は、水銀燈を護りたいんだ」 「それなら――」 水銀燈は縋るような眼差しを、ジュンに向けていた。 救いを求めて鳴き続ける迷子の子犬の様な、儚げな瞳を……。 「私の側に居て。どこにも、いかないで」 それで水銀燈の心細さが少しでも和らぐのであれば、幾らでも願うとおりにしよう。 ジュンは水銀燈の隣に腰を降ろし、彼女の肩を抱き寄せた。 「私ねぇ…………人を殺したことがあるの」 水銀燈が衝撃的な発言をしたのは、ジュンが肩を抱き寄せてから少し経った頃だった。 こんな時に、なんで悪い冗談なんか言うのだろう。いや……こんな時だからこそ、か。 意識が朦朧として、妄想を生み出しているのかも知れない。 だが、喋っている内は眠らずに済む。 水銀燈を眠らせない為にも、ジュンは肩を抱く腕に力を込め、耳元に囁いた。 「それって、何時のこと?」 「小学生の頃。めぐって子よ。私とは幼なじみで、大の仲良しだったわ」 「……もし良ければ、続きを聞かせてくれないか」 そうね、と水銀燈は弱々しく微笑んだ。学園ではいつも冷静沈着で、誰よりも 大人びて見えた女性が、今はとても小さく見える。背だって、彼女の方が高いのに。 「あの時、私達はいつもみたいに……一緒に遊んでいたわ」 ふざけ合う子供達は視野狭窄だ。水銀燈とめぐもまた、周りが見えていなかった。 いつも渡る横断歩道。信号が赤だと気付かないまま、水銀燈は道路に駆け出していた。 急な下り坂を、かなりのスピードで登ってくる乗用車が一台。 ドライバーには路面とボンネットが死角となって、小さな二人が見えていなかった。 一瞬早く気付いたメグが、水銀燈を庇おうとして道路に飛び出した。 「めぐと私は、車にはねられたわ。そして、私は病院のベッドで彼女の死を 聞かされたのよ。あの子…………即死だったって」 水銀燈の頬を、一滴の涙が零れ落ちた。 「そんなの、事故じゃないか。水銀燈が殺した訳じゃない」 「同じよ。私が注意していれば、あの子は轢かれなくて済んだんだもの。 私は、めぐを、単なる肉片に変えてしまった。私なんか……一緒に死ぬべきだったのよ。 ううん、もしかしたら本当は一度、死んだのかも。だって、内臓が破裂していたんだから」 「バカ言うなよ。水銀燈は生きてるじゃないか。めぐって子が庇ってくれたから。 その子が水銀燈に生きていて欲しいと願ったから、奇跡が起きたんだろ?」 「奇跡? ……そう、確かに奇跡ね」 涙の跡を残したまま、水銀燈は服の上から傷跡に手を当て、愛おしげに撫でた。 「こうして……移植された、あの子の臓器が、拒絶反応もなく私の内で生きてるなんてね」 「…………」(これは妄想なのか? それとも――) 「んふふ……嘘だと思ってるのね、ジュン」 僅かな沈黙からジュンの動揺を見抜いた水銀燈は、徐に立ち上がり―― 「これが……証拠よ」 恥じらう様に顔を背けて、自らの腹部に刻み込まれた傷を露わにした。 更に人の顔に似てきた不気味な傷が、ジュンを見ていた。成長する傷跡。 水銀燈は拒絶反応が無いと言っていたけれど、これこそが拒絶反応ではないのか? めぐの臓器が、水銀燈の外へ出たがっているのだとしたら―― そんな事は有り得ない! ジュンは直ぐに、頭に浮かんだ想像を打ち消した。 水銀燈を助けようと反射的に飛び出したメグが、そんな事を望む訳がない……と。 傷跡の顔が泣いているように見えた。 ジュンは立ち上がり、すすり泣く水銀燈を力強く抱き締めた。 水銀燈は満ち足りた気持ちで、ジュンの穏やかな寝顔を眺めていた。 この男の子は、何故こうも私を癒してくれるのだろう。初めて出会った時から、 一緒に居るだけで心地よさを感じていた。日だまりで昼寝をしている様な、温かい感覚。 真紅や薔薇水晶との語らいとはまた違う、身体の芯から温かくなる心地よさだった。 ――それでも僕は、水銀燈を護る。 先程のジュンの言葉を思い出して、水銀燈の耳は熱くなった。 どうせ死ぬなら、彼には秘密を打ち明けておこう。そんな投げ遣りな気持ちだったのに、 今では後悔に変わっていた。もっと早くに話しておくべきだった……と。 もしも、全ての人々が失われた自分の半身を探し求める為に、 日々を生きているのだとしたら――水銀燈は正に、それを見付けた事になる。 何億という砂粒に紛れている、小さな小さなダイヤモンド。 今なら、水銀燈は微塵も迷わず言い切る自信があった。 ――世界で一番、愛してる。 水銀燈は、あどけなさの残る少年の頭を――起こさないように気遣いながら―― そっと抱き、頬を寄せた。髪の鼻を埋め、ジュンの匂いを胸一杯に吸い込む。 たったそれだけの事なのに、胸が張り裂けそうなほどの愛しさが募った。 「好きよ――ジュン♥」 囁いて、水銀燈はジュンと――初めて異性と唇を重ねた。 少しだけ、チョコレートの味がした。 外に何らかの気配を感じて、水銀燈は戦慄が走った。時刻は午後十時。 「ジュン、起きて。何か、物音がするわ」 ジュンを揺り起こし、水銀燈は閉ざしたボードの隙間から外の様子を窺った。 いつの間にか、吹雪が止んでいる。雪も降っていない。しかし、誰の姿も無かった。 (木の枝から、雪が落ちた音だったのかしらぁ?) 不意に、水銀燈は『吹雪の止んだ後には雪女が出る』という、 寮の管理人の怪談を思い出した。 もしかして、今の物音は―― ずぼおっ!! いきなり天井から何かが飛び出してきて、ジュンと水銀燈は思わず絶叫を上げて 互いの身体にしがみついた。なんなんだ、一体? まずは深呼吸。 そして、冷静になってよく見たら、天井からぶら下がっているのは人の両脚だと判った。 二人で脚を引っ張ってみると、続いて全身が落ちてきた。 薔薇水晶だった。右手には黒い藁人形が握られている。 「………………呼んだでしょ?」 「呼んでない呼んでない」 ジュンと水銀燈は、掌と頚を一斉に、横に振った。 薔薇水晶の話では、吹雪が止んだのを見計らって、皆で二人の捜索をしていたのだという。 ともあれ、今は生還できる事を素直に喜ぶ二人だった。 因みに、薔薇水晶が持っていた藁人形は、銀ちゃんレーダーだと言う。 ジュンを探す気は、最初から無かったらしい。 【三日目】 スキー教室も、今日で最終日。朝から、はらはらと雪が舞う寒い日だった。 ジュンは昨日の遭難さわぎで自室謹慎処分となっていたが、独りで部屋にいるのも 退屈だったので、大浴場の広い湯船に身体を沈めていた。 不意に、扉が開けられる音がした。浴室の掃除だろうか。 だとしても、注意されてから上がればいいと思っていたジュンは、 聞き覚えのある声に話しかけられて、あまりの意外さに心臓が止まるほど驚いた。 「あぁら、ジュンも入りにきてたのぉ?」 そう言うと、水銀燈はジュンに背を向けて、蛇口の前の腰掛けに座った。 流れる水音が、浴室に反響している。水銀燈が湯を浴びている。 ジュンは誘惑に耐えかねて、そぉ~っと頚を巡らした。 だが、近視と湯煙のせいで、よく見えない。水銀燈の肌の白さだけが、 ジュンの網膜に焼き付いた。 やがて、身体を洗い終えた水銀燈は、臆面もなくジュンの隣に身を沈めた。 こう言う場合、女の子の方が大胆なのは何故だろう。 水銀燈の唇から流れ出た艶めかしい吐息が、ジュンをドギマギさせた。 もしかして、からかわれているのか? 「朝風呂も気持ちいいものねぇ、ジュン?」 「あ、ああ……そうだな」 辛うじて、ジュンは掠れた声を発した。 何を緊張してるんだよ、僕は。水銀燈の肌なら、昨夜にも見たじゃないか。 あの傷跡だって―― 気まずい沈黙。ジュンは、水銀燈の横顔をチラと見て、口を開いた。 「なあ……この温泉って、あの傷に効き目あるのか?」 水銀燈も、ジュンの横顔を一瞥した。二人の視線が、ちょっとだけ触れ合う。 「やっぱり、気になる?」 「水銀燈のことで、気にならない事なんか無いよ」 「即答ねぇ。もう少し、考え込んだりしなさいよ。つまんなぁい」 と言いつつも、水銀燈は満更でもなさそうだった。 メガネが無くても、この距離なら僅かな表情の変化も判る。 水銀燈の頬は上気していた。 「傷が有ろうと無かろうと、僕は構わない。だけど、その傷が 水銀燈を苦しめ続けているなら――」 「いるなら?」 「僕が、思い出に変えてみせるよ。 君が笑って話せるようになるまで、支え続けて見せる」 「…………ジュン♥」 水銀燈は嬉しそうに目を細めた。 「護ってくれるならぁ、ずっと側に居てくれなきゃダメよぉ」 一理ある。だったら、いつも隣に居る為に、何をすべきだろう? 悩むまでもない。実に簡単な事だ。 ジュンは決然と顔を上げると、水銀燈の紅い瞳を真っ直ぐに見詰めた。 水銀燈も、揺るぎない眼差しでジュンの視線を受け止める。 期待している様な彼女の瞳に力を得て、ジュンは勇気を振り絞った。 「水銀燈。僕と、付き合って欲しい!」 近視と湯煙のせいで、水銀燈の表情の、細やかな変化は判らない。 水銀燈は黙ったまま、ジュンと視線を絡ませるだけだった。 長い沈黙…………水銀燈は人を焦らすのが巧い。 そして、物事の落とし所を完璧に見抜く目を持っている。 くすっ……と、水銀燈は小さく笑った。 「素顔の貴方もステキよぉ、ジュン♥」 「はぁ? それって、どういう意……」 ジュンの言葉は、水銀燈の柔らかな唇に塞がれた。 相変わらず、しんしんと雪が降り続けていた。 湯上がりのヤクルトを飲みながら、俺は、並んで歩く彼女に提案した。 「水銀燈。少し、外に出てみないか?」 「そうね。玄関先くらいなら、梅岡先生もうるさいこと言わないでしょ」 長湯が過ぎて、のぼせ気味だった。 でも、脚がふらつく理由は……それだけじゃない。幸せ過ぎて、舞い上がっていたからだ。 これからは、もっともっと水銀燈と一緒の時間を作りたい。 気丈に振る舞う彼女が挫けそうになった時、いつでも支えてあげられるように。 水銀燈を護って命を落とした、めぐ。彼女の呪縛は、今も水銀燈の体内で生き続けている。 だけど、死者の影は月日と共に薄くなっていくものだ。辛いけど、それが自然の摂理。 ――めぐ…………俺は水銀燈と共に、君を思い出に変えてみせる。 「あははっ……涼しくて気持ち良いわねぇ」 「ああ。ホントに」 両腕を広げて、降りしきる雪の中をくるくると踊る水銀燈。 ジュンは、新雪へ仰向けにダイブして大の字にメリ込んだ。 のぼせた頬に、冷たい雪の感触が心地よい。 突然、胸に鈍い衝撃。 水銀燈がふざけて、俺の上に飛び込んできたのだ。 さらり……。 肩から流れ落ちた彼女の銀髪が、ジュンの頬を撫でた。 (実は、とっても情熱的なんだよな) 愛おしさに突き動かされて、ジュンは彼女の華奢な身体を抱き寄せ……。 ヤクルト味の口付けを交わした。 粉雪の舞う、この空の下で……ジュンは誓った。 もう絶対に、君を離さない。 終わり
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やわらかい月明かりに照らされたテラスで想いふける。 こんなにまん丸なお月様を見るにはまた一ヶ月待たなくてはいけない。 ドールにとって一月など一本の映画を見るくらいの時の流れでしかない。 「私って案外おバカさんなのかしら・・・・」 ふと思い出していた。妹と戦い、ローザミスティカを奪ったこと。 自分は間違っていない。お父様が望んだアリスを目指すために舞台に上がっただけだ。 だけど何故あの涙を見て心が痛むのであろう。こんなに苦しいのだろうか。 「一人でなーにやってるですか?水銀燈」 この子の涙を見て以来戦えなくなった。 お父様がアリスを求めているのに戦いとなると身体が動かなくなる。 「翠星石は何故私と一緒にいるの?私は一度蒼星石のローザミスティカを奪ったのよ」 ほんのわずか殺気を込めて言い放つ。 「まぁ、確かにお前は悪い子ですぅ。過去に蒼星石のローザミスティカを奪ったのも事実ですが・・・・」 「一体どうしたですか?過去の後悔に苛まれて慰めて欲しくなったですか」 翠星石には暖簾に腕押し状態で軽くいなされる。 「な、何をいってるの。バカじゃない?普通ならそんな相手にこうやって声を掛けることもしないわぁ!」 「嫌いになって縁を切るのが普通でしょ!?」 少し声を荒げて水銀燈は静寂に包まれるテラスに自らの嘆きを響かせた。 「水銀燈、お前は翠星石たちに嫌いになって欲しいですか?」 「・・・・・・・・」 静寂の中、ぽつりぽつりと翠星石が語り始める。 水銀燈はうつむいて沈黙してしまった。 「翠星石はいやですぅ。いくらお前が悪い子であっても、もう目の前で姉妹を失うのはいやですぅ・・・・」 「ただそれだけですぅ・・・・。だから、お前ももう嫌いになれだなんていうなです!!」 ふわっと翠星石の優しい良いにおいが水銀燈の鼻をくすぐる。 逃がさないとばかりに翠星石は水銀燈を抱きしめた。 「あっ、ななな何するのよぅ」 「まったく、お前みたいな悪い子はこうですぅ!!」 ちゅっちゅと翠星石が水銀燈の唇を奪う。 「・・・・んふぅ・・・・あ・・・・ん・・・・」 水銀燈の唇を食べるかの用に翠星石は自分の唇をはむはむと動かした。 振り払って逃げるという考えとは裏腹に次第に水銀燈の肩の力が抜けてくる。 それに気づいた翠星石は水銀燈の唇を割って舌を絡ませる。 「んっ・・・・はぁ・・・・んん」 観念したのか水銀燈は全身の力が抜けてしまった。 もう翠星石のなすがままになる。 「んふぅ・・・・水銀燈、ミルクティー飲んできたですね。良い香りがするですぅ」 お互い息が続かないために一度顔を離す。 水銀燈は翠星石のそのセリフに顔を赤くしてそっぽを向いた。 「かわいいやつですぅ~♪」 「翠星石、水銀燈?ここにいるかな。お茶持ってきたよ」 トレーを抱えた蒼星石がやってくる。お茶セットとクッキーをみんなで楽しむために持ってきてくれたようだ。 「あれ、随分と楽しそうなことしてるね」 テラスに設置されたテーブルにトレイを載せながら声を掛ける。 カップに紅茶を注ぎながら妖艶に水銀燈を見下ろした。 その視線がたまらなくなり、水銀燈は目を伏せる。 「実はかくかくしかじか・・・・なんですぅ」 「へぇ、水銀燈はかわいいねぇ。本当に君は純粋で無垢な優しいお姉ちゃんだよ」 きゅっと水銀燈を後ろから抱きしめてあげる。 ふわっと香るにおいがとても心地よかった。 抱きしめたついでに耳をはむっと甘噛み。 「ひゃっ!!やっ、蒼星石・・・・くすぐったい・・・・」 「翠星石もやるですぅ。・・・・はむはむ」 「んんっ!!二人でしたらいやよぉ・・・・」 「いつまでも過去に縛られてはいけない。僕たちは姉妹なんだから仲良くしよう?」 耳を弄びながら水銀燈を諭す。 水銀燈は耳に息がかかるたびに身体をピクピク反応させ悶えていた。 「僕はこうしてここに帰ってこられたんだから」 蒼星石はカップの紅茶を少し口に含む。 口に含んだまま水銀燈に深い深い口付けをした。 流れ込んでくる香り高い紅茶をコクコクと喉を鳴らして受け入れる。 水銀燈の口の端から零れた飲みきれなかった雫を翠星石が舌でペロリと舐めて取っている。 月明かりに照らされて・・・・三人は時を忘れてお互いを求め合うのであった。 「や~ん、水銀燈が妹二人に攻められてるわ~。・・・・かわいい」 木陰よりデジタルビデオカメラ片手にめぐ眺めている。 「フフ、翠星石ちゃんも蒼星石ちゃんも結構大胆ね~」 最近盗撮仲間になったのりも一緒に三人の様子を見守っていた。 後日、ドールの三人はこの映像を見せられ内緒にする代わりにめぐとのりにはむはむされたとか。 おしまい
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翠星石「さ、今日の授業はスコーン作りに挑戦ですぅ!みんな、せいぜい頑張りやがれですぅ♪」 その声と共に、沸き立つ家庭科室。しかし、その理由は調理実習だからというものだけではなかった。 女子A「先生…。何で、水銀燈先生がここにいらっしゃるんですか?しかも、エプロンまで付けて…。」 翠星石「ん?何か、この辺にある店のメニューのほとんどを制覇しちまったから、今日は自分で作るらしいですぅ♪ま、ほっときやがれですぅ♪」 その声に、さらに沸き立つ男子一同。それを見て、翠星石は思わずほくそ笑んだ。 そう、これでいい…この調理実習と、水銀燈の頼みをわざわざ聞いてやったという寛容な心に皆は感動して、この翠星石の人気はさらにUPするはず…。 そして、今年も『生徒が選ぶ、尊敬する先生ランキング』の1位になってやる…! そんなことを考えながら、スコーンの材料を用意する翠星石。 しかし、生徒の心はそんな単純なものではなかった。 女子B「水銀燈先生…これ、何ですかー?」 水銀燈「んー?アスパラとエビのキッシュよぉ…。で、こっちがポットパイって言って、パイの中にシチューをいれたやつでぇ…今そこで冷やしてるのがヨーグルトのムースよぉ。」 手際よく作業をこなしながら、ぶっきらぼうにそう説明する水銀燈。 その腕は、家庭科担当である翠星石に勝るとも劣らないのものであった。 男子たちは、その普段見れない水銀燈の一面に心を奪われ、女子たちもその料理の美しさに、思わず目を奪われた。 その光景に、水銀燈本人も心を良くしたのか、思わず作業にのめりこんでしまう。 そして、あることに気がつき、こう言った。 水銀燈「…ちょっと多く作りすぎちゃったわね…。誰か食べるぅ?あと、生地も余ってるから、欲しい人は勝手に持っていきなさぁい。」 その声に、さらに群がる一同。 もはやそこに、翠星石の出番は無かった。 雛苺「それにしても、水銀燈は凄いね…。何でも出来ちゃうの…!」 授業を終え、食堂でしきりに水銀燈を褒める雛苺に対し、翠星石は未だにふくれっ面のままだった。 それを心配して、雛苺は翠星石に優しく声をかけた。 雛苺「翠星石…大丈夫?」 翠星石「…別に翠星石は、水銀燈の事なんてお構いなしのへーきのへーざですけどー…ちったー、翠星石のメンツというものも考えて欲しいですかもぉー…」 イライラした様子で翠星石はそう答えると、気晴らしに金糸雀とゲームでもしようと職員室へと向かった。 しかし、そこで翠星石はとんでもないものを見てしまった。 翠星石「な、何ですか!?この人だかりは!?」 翠星石の目に映ったもの…それは、水銀燈の周りに集まる女子生徒たちの姿だった。 翠星石「おい…これはどういうことですぅ!?おめーら、前の生徒会選挙の時、散々水銀燈に罵声を浴びせてたじゃねぇですか!?何でこんな事になってるですぅ!?」 集まっている女子の何名かを捕らえると、翠星石は事の真相を問いただした。 それに対し、生徒たちはこう言った。 女子C「だって…よーく考えれば、水銀燈先生ならいつやってもおかしく無い事件だったし…」 女子D「そうそう、むしろよく今まで耐えたって感じですし…」 女子E「それに、あれだけのことが出来るんだから、それだけ男の気持ちとか恋愛事情とかに詳しいってことだと思うんですよ。だから、ちょっと相談に…」 女子F「あと、飽きちゃった本とかCDとかを売りにいくのが面倒くさいらしくって、それを気前良くくれるんですもん♪」 そう笑顔で答える生徒たち。 水銀燈本人はといえば、あまり経験したこと無い事に多少戸惑ってはいたが、悪い気はしていないらしい。 その時、その中の女子の1人が、こんなことを水銀燈に聞いた。 女子F「せんせーい、倖田來未の新譜とかってまだあったりしますー?」 水銀燈「倖田來未?ああ…それなら、3年A組のGって子にあげちゃったわよぉ?だから、その子に貸してもらいなさぁい。」 女子F「えー…。私、あの子苦手なんだよなー…」 水銀燈「何言ってるのぉ。ちょっと内気だけど、根はいい子よぉ?それに、趣味が絵を描くことって言ってたから、あなたと合うんじゃなぁい?」 女子F「…へー、そうなんだ…。じゃあ、ちょっと行ってこようかな…。あ、先生!ありがとうございます!」 水銀燈にとっては、それはなんでもない行為だったのかもしれない。 しかしこの対応を見て、他の生徒たちが水銀燈に向けて何か尊敬にも似た視線を送っているのが翠星石には分かった。 翠星石「…きぃぃぃぃぃ…!」 そう怒りをあらわにすると、翠星石は何かを取りに倉庫へと向かった。 翠星石「あった…!これです!これですよ!!」 洗車用の高圧ジェットホースを手に、翠星石は思わず歓声をあげた。 確かこの後、水銀燈はお昼寝タイムのはず…ならそこで一気に… そんなことを考えながら、翠星石はこう呟いた。 翠星石「…こうなったら全面戦争ですぅ!!私を怒らせるとどうなるか、たっぷり教えてやるですぅ!!」 …しかし、翠星石は忘れていた。 高校生の時、水銀燈がいじめにあっていた頃、彼女はその関係者一同を逆にいじめ返し、もれなく転校や自主退学にまで追い込んだこと… その後、彼女が『ゲーム』と称した『無差別いじめ』に自分も標的にされ、相当悩んでいたこと… そして、そんな強大な力を持つ彼女が、例の『学校のっとり未遂事件』のせいで薔薇水晶の監視下にあり、長らくストレスの発散が出来ていなかったことを… 手近な蛇口にホースをセットすると、保健室で就寝中の水銀燈の顔でめがけて、翠星石は勢いよく水を発射した。 そして数十秒後…彼女の悲鳴が、学校中にこだました。 蒼星石「何!?今の悲鳴は!?」 親友の悲鳴にいち早くその場に到着すると、そこには全身ずぶ濡れの水銀燈と、それに引きずられて泣き叫ぶ翠星石の姿があった。 相当派手にやられたようで、翠星石のスーツの袖の片方は剥ぎ取られ、頭も酷い有様になっている。 蒼星石「す、水銀燈!何をされたのか大体検討がつくし、気持ちも分かるけど、もうこれだけやったら十分だろ!?許してあげなよ!?ね!?」 水銀燈「許す?何言ってるのぉ?私は翠星石の夢を叶えてあげようとしてるだけよぉ?」 蒼星石「ゆ…夢って…?」 水銀燈「ん~?なんかこの子、みんなの人気者になりたいんですって。だから、その願いを叶えてあげようと思ったの♪」 蒼星石「…翠星石…君って人は何て馬鹿なことを…。で、どうする気だったの…?」 水銀燈「簡単よぉ…。みんなの前で裸にしちゃえばいいだけだもぉん…♪よかったわねぇ翠星石…みんなにかわいがってもらえるわよぉ?」 その言葉に、なおいっそうの悲鳴をあげる翠星石。もはや、その顔も涙や鼻水まみれになっている。 その後、蒼星石は遅れて到着した真紅、薔薇水晶、そして雪華綺晶の力を借り、4人がかりで水銀燈を落ち着かせると、事の真相を問いただした。 翠星石「だって…水銀燈が姑息な手を使って生徒たちの人気を独り占めにしてて…それが翠星石には羨ましかったんですぅ…」 氷嚢で殴られた頭を冷やしながら、伏し目がちに翠星石はそう答えた。 それに対し、水銀燈は冷ややかな視線を送りながら、こう言った。 水銀燈「馬鹿じゃない?そんな事考えてやってても、続くわけないでしょう?何か貰えるのならまだしも、何でこの私が生徒に気を使わなきゃいけないのよ?」 翠星石「え…じゃあ、あれは…」 ふぅ…とため息をつくと、水銀燈はこう返した。 水銀燈「…ま、私を倒したいと思うのなら、いつでもかかってきなさぁい。方法はあなたに任せるわぁ…。つまり、あなたがマトモな方法で勝負を挑んでくるのなら、私もそれに合わせてあげる。でも…」 翠星石「…で、でも…?」 水銀燈「それ以外なら…私のやり方で、かわいがってあげる…♪」 その言葉に、思わず震え上がる翠星石。 以来、彼女は水銀燈には手を出すことを控え、授業の内容に集中するようになった。 そして、そんな翠星石の生徒への考えが教師の皆に知れると、彼女らも気持ちを引き締め直し、授業や学校行事に力を入れるようになった。 こうして、多少遠回りにはなってしまったが、学園には一応の平和が訪れた。 その平和は、もろく壊れやすいものではあったが、生徒たちはいつまでもその喜びを享受したという。 完 [ このシリーズ一覧 ] 2つの力 闇の住人 穏健派の逆襲 愚者の苦悩 死の誘惑と黒き天使